『へのへのもへじと棒人間とパンツ』(林快彦)の分析と喝采

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2022/10/12、マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」林快彦(はやし・よしひこ)作「へのへのもへじと棒人間とパンツ」が掲載されました。

クライマックスにはサン=サーンス交響曲第三番のフィナーレでパイプオルガンC-durを爆発させるような透明度の高い快感が待っています。

 

設定:棒人間としてしか認識されない受け身の相貌失認状態で生まれた優柔不断な男が、人間として認識されるようになるまでの話。へのへのもへじは、ヒロインがその顔面に描く。パンツは、好きな人(性的衝動を覚える人)のパンツを見ることが、人間として認識されるようになるための引き金という小道具として出てくる。

通底するテーマ:分解能。閾値。人が人をどう認識しているのか。いつから「好き」なのか。


登場人物名 ヒロイン:分目→分け目とすると見えるようになる境界

 

以下、ページ名で特異に感じた部分を記します。本漫画は細部を読むほど面白いため、スマホですらすら読むよりも、単行本化されたときに読み込む方が面白いと思います。

 

1ページ目扉絵 白紙のキャンパス→ラストへの対比
2ページ目 ワイワイガヤガヤのオノマトペ。コマ外のコメントの気持ち悪さ(デデデデ単行本いそべやんのページ)
3ページ目 教室後ろの習字に伏線

分目→運命
山下→豊満

佐藤→孝行
4ページ目 3ページ目のレイヤー抜きで目の錯覚
5ページ目 異質が教室内に存在する設定に反する世界観の慣れと学校に行きたくない、なぜならいじめられるからという青少年に平凡な悩み。そんなことよりも、ヒロイン股抜きのアングルでかもすパンツへの布石。パンツは常に読者には見せられない
6ページ目 コマ上から飛び出す分目さん。遠近で、躍動的に登場シーンを印象づける。山下の表情にプロットを塗り込む
7ページ目 山下への赤ら顔→僕は漫画が好き。『おやすみプンプン』的な内面的な描写で、非日常への憧憬。そこで二人だけの秘密を得るまでが浅野いにおライン。ここで漫画として出てきている『とらぶりゅ』のララ(?)のパンツは見えている。古手川(?)は隠す。
ちなみに周りの漫画はバクマンスケットダンスアイシールド21ハンターハンターのため、世界設定は2008〜2009年ごろと推測される。
8ページ目 秘密共有
9ページ目 水玉がやたら強調されはじめる。絵の資料という嘘も提示され、その嘘が純粋をキモく破壊していく。風に吹かれる空き缶での動線づくりなど従来の表現技法を超えていく遊びがある。風向きに反してセーターが膨らんでるのもよい。
10ページ目 水玉コラで隠すのではなく、見えた後の恥の時間を丸で抜く。丸は佐藤の顔面であり、相似形が提示される。
11ページ目 秘密を共有した分目との距離感がバグり始める。
12ページ目 棒人間だから忌避されない優しい世界において、激情が強調されていく。昂らせて、次のページで落とす。
13ページ目 棒人間でなくなるためのアナザーストーリーが提案される。ここから、①棒人間でなくなる、と、②恋模様の二つが進行する。二つは一つに収束する。
14ページ目 母親の指輪など細かい造形。
15ページ目 激しいテンションの奇人が出てくると、もはや浅野いにお
16ページ目 同じ2コマの線を途中とって、覗き見の表現。秘密共有の深化は同級生が破壊しようとする。山下の気遣いも記され、激しい。
分目が「消出点」と消失点という美術用語を誤用。ここではおそらく、消えている顔面が出てくる物語であることから、作者敢えての造語的誤用と解釈したい。
17ページ目 分目のアドバイスから絵が上手くなる佐藤。同じ空の下の満月で、相似形。映画技術的にはクロスカッティングか。
「ワッ…」浅野いにお的。ちいかわではない。
ちなみに佐藤だけのコマの単純なトーンは佐藤の心象を出しており読者は読みやすい。ここからどんどんトーン貼りでテンポを上げていく。
18ページ目 視点を振っているので絵を教えてセリフがしっかり目に入る。
19ページ目 へのへのもへじ登場。これは最後の分目の決め台詞に繋がる。
20ページ目 二人の秘密が深化していく折に、フチを黒で取っている。あくまで経過ということだが、この2ページは初めて佐藤の目で見ている風景であることが重要。おそらく佐藤の焦点がどこにあっているか、ということで、分目のセリフより伸ばされた手を見てるなどある。セリフの前に物体を置くなどの技巧はすごい。
21ページ目 同じくだが、佐藤の視点がポイントなので二人の距離が物理的に縮まっている方にはいかない。呆れ顔の雪だるまという似た物質を提示して、視点を神の視点に戻した。日常パートに戻すタイミングでフチの黒も白になる。
22ページ目 山下を相手にきょどっていたちりとりシーンで、分目には感謝すらしないのがいい。モチーフを変奏するあたりドイツ古典派。
23ページ目 告白する!の転換点でセリフの日本語を破壊することによる動乱の描写。
24ページ目 んふっ
25ページ目 棒人間だし ここで今までなかった差別用語として棒人間呼称が出てくる。山下に悪気がないことのダメージの描写へ…と思いきや
26ページ目 目の「の」、鼻の「も」がにじんでいる
27ページ目 涙の流れ方から、おそらく二人は同じような顔になっている。
28ページ目 セリフコマ破壊で感情爆発を表現するあたりすごいな。
29ページ目 「私が絵を描けない」は佐藤の信頼できない語り手による読者も誤認させられていたちゃぶ台返し。1分泣く→殴る→真摯な対応→こ突く、あたり、分目の一貫したキャラ作りがいい。
30ページ目 保留の仕方が浅野いにお
31ページ目 分目の距離感が好きなまま遠のくのが最後への助走。認知の話を出しもう一つの話を引き戻しておく。
32ページ目 キュ にトーン貼るのすご。空の下に3画分の音、「あ」だろう。
山下との日常づくりで公認感をかもすのもキモい。
33ページ目 山下さんが「豊満」になっている。分目が「運命」になる日が近づいてきた。卒業という時間の使い方が出てきた。読者も電子書籍だが残り数ページのあの感覚になる。
34ページ目 恋愛色を減らし認知の話を出しながら、時の経過を顔面の一文字で進めるのがうまい。
35ページ目 猫生きてた。美術うまなってて壁に飾ってある。分目母の少年漫画感はやり過ぎ説もある。ブラジャー姿よりも、分目部屋にある分目のスケッチ、おそらく佐藤作。佐藤には見えてないが分目にはその羞恥もある。大好きにされている。
36ページ目 認知とトラブリュが重なる感動なので分目は目に入らない。
認知をパズルに例えて後2ピースだったのがブラジャーで埋まった。ここがタイトルに戻る最後の動線
37ページ目 ブラジャーを見た男がドヤ顔で死ねと書かれていて周りに見られている。ここで二人の特別性が出され、大団円の高揚を用意する。
38ページ目 山下を描く狡猾さ。
そして、扉絵のキャンパスへ。
39ページ目 キモい台詞を言わすためにそれ以外をキモくなくしている。キモい。
40ページ目 認知と恋愛のダブルストーリーをつなぐ掛け合い。39がキモいのでテンポアップが終結部感
41ページ目 トーンを濃くする技法に加えコマをデカく複雑にしていく。

作画技法の合わせ技なんだろうなァ!?
42ページ目 最後のドミナント
43.44ページ目 トニック。メジャーセブンスでいいですか。キャンパスに佐藤の顔の投影。読者には明かされないのは佐藤の顔と分目のパンツである。日が沈みかかってます光の入り具合ですが卒業式の開始時間遅くないですか?というのはなし。(もしくは早朝なのか)
45ページ目 視点を影を作る側に。分目の虹彩で転換すんのすこ。
46ページ目 堂々としろよ!は山下への告白を思い立った時に戻った感じ。分目の時は止まっていた。下の名前呼び(キモ)、実は手紙用意してた(キモ)、告白は小声で(キモ)なので。
47ページ目 「もじもじしてんじゃねーよ」
文字だった佐藤が文字じゃなくなったことへのダブルミーニング。これが凄過ぎる。
そして手紙(文字)を破り、肉体に飛び込むが、文字がキャンパスに投影され、
48ページ目 扉絵に回帰。

 

しつこく読んでようやく、鮮やかにつくられていることが分かりました。

他の作品も同じように読んでみます。次回作、そして単行本化を楽しみにしています。